特別展「運慶」~祈りの空間ー興福寺北円堂②四天王多聞天
特別展「運慶」~祈りの空間ー興福寺北円堂の最大の見所は普段中金堂に安置されている四天王を北円堂の弥勒・無著・世親を囲んで展示されている点だろう。この議論は古く、1990年に藤岡氏が指摘し、その後伊藤史朗が「興福寺曼荼羅」に画かれている北円堂四天王から多聞天以外の四天王の像名を変更する説を1995年に出しその後「仏の瀬谷さん」が追認して現在にいたっている。私がこの説を知ったのは2010年発行の別冊太陽「運慶」に寄稿した藤岡氏の掲載文が初めてだが今回東博児島学芸員によって北円堂の鎌倉当初の状態を東博に再現された。なかでも印象的だったのが当初から尊命が変わらない多聞天で、右手に戟を執り、左手で宝塔を高く掲げて、それを仰ぎ見る姿が露出展示で眼前にせまってくる。宝塔を高く掲げるのは東大寺戒壇堂の四天王多聞天の奈良時代以来の伝統的な姿だが、宝塔を仰ぎ見るダイナミックなスタイルは運慶仏らしい。失われた古像を単に復興するだけにとどまらず、新たに創出した斬新なスタイルこそ運慶の真骨頂だろう。異材を嵌入する塑像風の瞳を盛り上げる表現、むき出しにする八重歯、天平風の甲西に獅子噛のアクセント、激しい動静といった古制と新用とが破綻なくまとめられている本像は四駆のうちひときわ目をひく四天王だ。四天王は湛慶・康運・康弁・康勝が担当したとのことだがもしかしたら遺作がない康運に運慶が手を加えてできたと想像するのも楽しい。会場のグッズコーナーで多聞天のフィギアを購入して東博を後にした。
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