2012年12月29日土曜日

特別展「古都鎌倉と武家文化」④

今回の「古都鎌倉と武家文化」展で私が特に注目していたのが、仏法紹隆寺の不動明王だ。この作品は像高42センチだが、山本勉先生の別冊太陽「運慶」でも運慶作品候補にあげあられており、金沢文庫の「仏の瀬谷さん」がわざわざ諏訪まで出向いてこの展覧会に出展される運びとなった仏像だ。15年ほどまえに文化庁の主任調査員松島氏が運慶作品と発表したことがきっかけだった。別冊太陽を読んでから私も本気で諏訪まで見に行こうかと考えたほどの仏像が鎌倉国宝館で拝観できるとのこと。X線写真で体の内部に仏像の魂とされる心月輪(しんがちりん)があることがわかっている。「仏の瀬谷さん」も「紹隆寺は鎌倉幕府の有力御家人であった諏訪氏ゆかりの寺だけに、幕府のために仏像を作った運慶の作があってもおかしくない」と言っている。山本勉先生は「作風は運慶的であるが、小像であり断定するのは躊躇されるところである」という。学芸員も明確には運慶作とは明言を避けて説明していた。私も山本先生の意見に賛成で、他の運慶作品とはちょっと違うかなと思ったが、横に並べて称名寺光明院の運慶作「大威徳明王」と比較して展示されているのを見てもしかしたらそうなのかと感じた。まだまだ謎多き運慶作品であった。

2012年12月22日土曜日

東京国立博物館140周年特集陳列館蔵仏像名品選⑤

東博仏像名品選では仏像をより近くに感じられる露出展示と、ガラスの存在を忘れさせるほどきれいなガラスケースに収まった展示方法がある。川端龍子氏寄贈のこの毘沙門天はガラスケースでの展示だった。四天王のうちの多聞天は単独で祀られるときは毘沙門天と呼ばれ、片手に宝塔を捧げ持つ姿につくられており、表面の美しい装飾がみどころだ。緑・青・橙(だいだい)・赤などの彩色の上に金箔を細く切ってさまざまな文様を表しているいわゆる截金技法(きりがねぎほう)だ。このような華麗な装飾は平安時代後期の仏像や仏画でもちいられる。堂々とした造形からも、一流の仏師の作だろう。玉眼の使用からもうなづける。この仏像は奈良県の廃寺中川寺にあったと伝えられる。装飾の細かい技を見るならばやはり東博の展示にかぎると思った。


2012年12月15日土曜日

特別展「古都鎌倉と武家文化」③

特別展「古都鎌倉と武家文化」に仏像クラブで拝観しようと思ったのが、静岡瑞林寺の康慶の地蔵菩薩が展示されるとの情報が入ってきたためであった。康慶は運慶の父で慶派の創始者である。この地蔵菩薩は現存する康慶のもっとも古い仏像として知られており、学芸員によると石橋山の敗戦ののちの頼朝をかくまった箱根山神社別当や頼朝の側近の名が像内奥書に記載されており、南都仏師の東国武士とのかかわりがこの時点までさかのぼれる貴重な資料が隠されていた。上体をやや引く姿勢は円成寺大日如来とも共通しており、めりはりのついた強い顔だちとともに若々しさを感じられた。後に六波羅蜜寺で運慶の地蔵菩薩を拝観することになるが、親子の作品を比べて拝観するのも一興だ。地蔵菩薩のはつらつとした表情を目に焼き付けて、つぎの展示を見に移動した。


2012年12月9日日曜日

東京国立博物館140周年特集陳列館蔵仏像名品選④

東博開館140周年記念館蔵仏像名品選は今週の日曜で終わったが、館蔵であるのになかなかお目にかかれない仏像が多数展示されていたので、見ごたえがあった。ここで紹介する京都泉涌寺(せんにゅうじ)の阿弥陀如来もなかなか東博本館でお目にかかれない作品だ。展示では光背がはずされた状態での展示だが、最近東博のサイトをチェクしていたら仏像名品ギャラリーに光背をつけた写真が掲載されているのを発見した。鎌倉時代の作だが、透かし彫りの美しい光背となかに円光背の変形で花のよう光背が合わさったすばらしい写真だ。展示の管理上はずしたのだろうが、見たかった。さすればトウハク仏像選手権で上位を狙えたのではないだろうか。仏像のほうも印相が変わっていて、右手を胸の前にもってくるポーズが珍しい。衣の彩色が蒔絵になっていてすばらしい。またお会いしたい仏像だ。

2012年12月2日日曜日

知恩院三門の釈迦牟尼坐像

京都非公開文化財特別公開で安楽寿院の次に訪れたのが、知恩院の三門だ。高さ24メートルの国宝三門の2階にこの期間だけ登ることができ、中の釈迦牟尼坐像が拝観できる。拝観料を払って、靴をビニールに入れ、三門の右側にある急な段を上がった。薄暗がりに多くの善男善女が座っていた。係りの方が説明をしているのは、檀の上にある半丈六はあろうかという釈迦牟尼坐像(しゃかむにざぞう)について。薄暗がりの中、目をこらしてみると、金の顔に青い髪で、左に善財童子、右に須達長者が控えており、さらに左右には多くの羅漢像があった。天井を見ると狩野派の龍が真ん中におり、左右には迦陵頻伽(かりょうびんが)や飛天や霊獣などが描かれており圧巻だ。釈迦牟尼坐像は宝冠釈迦如来で手は座禅を組むときの法界定印だ。いつまでの見ていたいところだったが、まだ長講堂と六波羅蜜寺が残っているので、急な階段を下りて次のお寺に向かった。