2013年10月27日日曜日

康円の愛染明王

昨年の東博特別展示「運慶周辺と康円の仏像」でこの神護寺の愛染明王(あい
ぜんみょうおう)を見た。康円は運慶の孫弟子にあたる仏師で、たった10日間でこの仏像を製作したという。台座に墨で書かれているという。像高は40センチと小像だが、驚くべき制作の速さと出来栄えで迫力がある。憤怒の表情や細工の精密さに舌を巻く。愛染明王とは愛欲の力を悟りへと昇華させる仏で、庶民から恋愛成就の仏様として信仰があつい仏像だ。恋愛成就というと西洋のキューピットを思い浮かべるが、姿かたちはまったく違うものの、両方とも弓矢を持っているのが興味深い。以前山梨で天弓愛染明王という天に向って矢をつがえる仏像を見たが、この作品は6本の手に弓と矢、仏具や花を持ち実にバランスがよい。今年は本館彫刻のコーナーに展示されているので、スポットライトと蛍光灯の微妙なライティングで光る愛染明王を期待している。

2013年10月20日日曜日

室生寺の未神

奈良国立博物館には多くの「寄託品」(よたくひん)と呼ばれるお寺から預かった
仏像がある。昔は興福寺の阿修羅や法隆寺の百済観音などが預けられていたが、お寺の展示施設が充実するとともに、減ってきているとのこと。そのなかでもまだ奈良国で見れるのが、この室生寺の十二神将のうち2体の未神と辰神だ。室生寺の十二神将をこよなく愛したのが、写真家の土門拳だ。土門拳はおのおの特徴をつかんでニックネームをつけていたとのこと。この未神は「はてな」とつけたそうだ。奈良国の図録によるとそれぞれ干支を頭に乗せている十二神将だが、この大将たちは顔まで干支の動物に似せてあるとのこと。この秋室生寺を訪れる予定だが、大将のそれぞれの特徴と顔に注目して拝観したいと思う。

2013年10月14日月曜日

特別展東大寺

本日、県立金沢文庫で開催されている「東大寺展」に出かけた。パンフレットに
は運慶作の国宝「重源上人像」(ちょうげんしょうにんぞう)が表紙を飾っており、散歩がてら金沢文庫まで足を運んだ。1階で運慶の「大威徳明王」(だいいとくみょうおう)を見てから、2階の特別展会場に向かった。まず眼に飛び込んできたのが、運慶の「重源上人像」だ。平家の焼き討ちにより消失した東大寺を、鎌倉時代に再建した高僧が重源上人だ。亡くなってまもなく製作された上人像で、リアルを超えたリアリズムを追求する運慶らしい作品だ。像は背をまるめてうずくまるように座り、それでもぐいと首をあげて正面を見据え、両手で数珠を持つ老いさらばえた僧侶の姿だ。山本勉先生によると、運慶は頭と体という二つの単純な塊として大胆にとらえ、その二つを頸部でつないでいるという。他にも東大寺千手堂の邪鬼がえらく踏まれっぷりがよい彩色が残る四天王や試みの大仏、東博の「東大寺大仏展」で見た快慶の切金が美しい地蔵菩薩が展示されており、出展数はすくないが充実した展覧会だった。東大寺のクリアファイルを購入して、夕暮れの称妙寺をそぞろ歩いて家路へと向った。

2013年10月5日土曜日

大善寺の薬師如来

今日仏像クラブで山梨を訪れた。快慶風の三尺阿弥陀がある九品寺で、金が残
る鎌倉時代の仏像に感動し、そこからタクシーで大善寺に向かった。大善寺では5年に一度の「ぶどう薬師」の御開帳が行われており、国宝の本堂の中には大勢の善男善女でごったがえしていた。順番に並んでぶどう薬師の参拝が行われていた。薬師如来と厨子の外に祀られている、日光・月光菩薩は平安時代前期の作。薬師如来の左手には薬壷がなく、伝承どおりぶどうを手にしてお厨子のなかにおられた。両脇には鎌倉時代の像高2メートル50の日光・月光菩薩と十二神将が控えていた。日光・月光は平成23年度に保存修理がされ、面目を一新した。特に月光菩薩がよく、下から見上げる。十二神将も鎌倉時代の作で、それぞれ一メートル40前後の甲冑に身を固める武将の姿で表されている。鎌倉時代の十二神将の特徴である十二支をそれぞれ頭にのせ、憤怒の形相をしてこちらを睨みつけているが、どこかユーモラスで、興福寺の十二神将よりどこか素朴な感じの仏像だ。仏像クラブの面々おおいに感動し、遅めの昼食をとった「ぶどうの丘」でワインを片手に盛り上がった。