2011年5月28日土曜日

薬師堂だより

今日、仏像クラブで函南の桑原薬師堂を訪れた。函南駅から急な坂道を登り、のんびりとした集落にあるお寺の裏に桑原薬師堂はある。中には実に24躯の仏像が安置されており、結界の外側から拝観した。慶派「実慶」の製作した阿弥陀三尊が左手に祀られていた。黒漆が塗られており、来迎印を結んで右に観音菩薩、左に勢至菩薩を従えた秀作だった。右手の仏像を見て私はグットきた。右手には平安時代の薬師如来と十二神将が祀られていたがそのお薬師様のお顔がとてもおだやかで、函南原生林に囲まれた薬師堂の環境とあいまって心おだやかになった。薬師如来は堂々とした体躯の一木造で木目が見えている。顔面の彫りは鋭く、衣文は簡略ながらよくまとまり、胸・腹部の厚さにより迫力がある。参加しているメンバーの一人がここをえらく気に入り映画化された「阿弥陀堂だより」のようなお堂だと言っていた。この桑原薬師堂は来年1月で閉まり、新設した博物館に展示されるとのこと。地元の人によって大切に守られた仏像が保存・修復のためとは言え博物館入りするのは寂しい話だがいたしかたない。ぜひ今の雰囲気の薬師堂を多くの人に見てもらいたいものだ。

2011年5月21日土曜日

運慶の観音菩薩・地蔵菩薩

今週ネットをチェクしていたら、「三浦三十八地蔵尊卯年御開帳」のポスターを見つけたのでさっそく本日三浦にでかけた。まず向かったのが昨年の3月に訪れている「満願寺」だ。ここには運慶作の観音菩薩と地蔵菩薩があり、「春の文化会」のみに御開帳される。今度の御開帳では4月24日から5月24日まで一ヶ月間収蔵庫が開かれていた。私が訪れてたときは参拝客がほとんどなく、収蔵庫の中で運慶の観音・地蔵を独り占めできた。堂々たる体つきは同じ三浦の「浄楽寺」にある阿弥陀三尊に通じるところがあり、先行して造られたと考えられている。今回じっくり拝観できたので、いろいろな発見があった。観音像のおなかはでっぷりとふくれていること、観音像の腕につけてある臂釧(ひせん)が今年の冬に見た「運慶展」に展示されていた「滝山寺装身具」に通じるところなのだ。研究者によると、もともとは丈六の本尊がありその脇侍だったとか、初めから2体で地蔵と観音をセットにした航海の安全や安産にご利益がある、放光菩薩思想からきているといわれている。海の安全を祈った三浦氏の一族佐原氏の菩提寺である満願寺からすると後者のほうがうなずける。うららかな初夏の日差しに恵まれ満願寺で鎌倉のもののふたちの思いを感じた一日だった。

2011年5月14日土曜日

上宇内薬師堂

平成20年夏会津を訪れた。会津への旅を思い立ったのはひとつにはJR東日本の夏のキャンペーンで会津が「仏都」と呼ばれるほど仏像が多いことを知ったからである。タクシーで坂下にある上宇内薬師堂へ向かう。タクシーに乗り込み車は一路、会津若松の西北に向かった。上宇内薬師堂の薬師如来は2007年のキャンペーンの表紙になっておりボランティアガイドの説明があるとのこと。ボランティアガイドの方は感じのよい男性で奥に導かれ、薬師如来に対面した。丈六の薬師。補修箇所以外は平安期の作だという、真っ黒な顔で唇の小さな坐像。なんといっても胸の張り方がすさまじく、胴体が短めなのも手伝って、パワーの濃縮感がびんびんと伝わってくる。ボランティアガイドのぼくとつとした会津弁の説明によると、どちらかと言えば定朝風だという。この薬師を会津の人々がどんなに大切にしていたか熱弁をふるった。雨によって足が腐り、のちにそこだけ補修されたらしい。上宇内薬師は様々な障害と戦いながら今に至っていたのである。それを思うとなおさら薬師が愛おしくなりその場を立ち去りがたくなった。十分説明も聞き満足して今日の宿、「東山温泉」に向かった。

2011年5月8日日曜日

白洲正子神と仏、自然への祈り展④(正子が出会えなかった十一面観音)

先月訪れた「白洲正子神と仏、自然へに祈り展」で私が一番印象に残った仏像が福井・大谷寺の「十一面観音坐像」だ。阿弥陀如来・聖観音と三尊で展示されていたが、中央でひときわ輝いていた。いずれも平安時代の作で秘仏であったため保存状態よく金箔も残っていた。大谷寺は役行者と同時代の高僧泰澄大師が創始者の古刹で、白洲正子も訪れたがこの十一面観音は見れなかったとのこと。本展覧会は正子のお孫さんがプロデューサーとして関わっておられ、祖母の果たせなかったこの仏像への思いを本展覧会で果たされたようだ。頭上面を二段におく十一面観音は歴史を感じさせる優品で、目鼻立ちはいたって穏やかで、頬や胸に適度のふくらみがあり、衣文を浅く刻み、全体的に温和な表情だ。私は何度もその前に立ち、正子がこの仏像に出会っていればどんな文を残したのだろうかと思った。

2011年5月6日金曜日

鎌倉国宝館

昨日新緑が美しい鎌倉を訪ねた。普段中門までしか入れない寿福寺がGW中開放されご本尊が拝めるとのこと。2メートルを越す室町期の脱活乾漆製釈迦如来だという。寿福寺に行ってみると中に入れ、中央に大きな釈迦如来が鎮座していた。本堂の外からの拝観で双眼鏡でのぞきかんだが赤黒い釈迦如来で、運慶の大日如来に似た高い髻(もとどり)が特徴的だ。しかし室町期の仏像のため鎌倉仏のような迫力は感じられなかった。気を取り直して鎌倉国宝館に向かった。「特別展鎌倉の至宝」が開催されており、清雲寺(横須賀)の「観音菩薩」が特別公開されていた。大陸風なくつろいだ姿勢の「遊戯座(ゆげざ」の観音様だが、展示のため華麗な宝冠がはずされておりがっかりした。同時開催している「鎌倉の仏像展」のほうに見るべき仏はあった。鶴岡八幡宮愛染堂にあった愛染明王は有力運慶派仏師の手による迫力ある仏像だ。ほかに寿福寺から預託されている鎌倉期の地蔵菩薩が素晴らしかった。鎌倉国宝館では今年の秋にも「鎌倉と密教美術」という特別展が開催され、明王院の五大明王や慶派仏師作の伊豆修善寺大日如来などが出展される予定だ。足しげく通いたいものだ。

2011年5月5日木曜日

白洲正子神と仏、自然への祈り展③(細面な十一面観音)

今回の展覧会では、ほとんど素朴で味わい深い仏像ばかりであるが、この十一面観音は南山城・海住山寺から来たため、洗練された美しさがある。U案内人はそこが気に入ったのか写真で見るより細面で美しい観音様だと絶賛していた。普段は奈良国立博物館にあり、毎年10月にだけお寺で公開される観音様だ。像高は50センチもみたないかわいらしい仏でカヤの一木作りで壇像彫刻を代表する洗練された十一面観音だ。とてもバランスがとれた体つきで、作者の高度な技量を感じさせる名品だ。とくに衣文が流れるように下にたれておきながら重厚さを併せ持つところなどは小気味いい。すこし腰をひねってたつすがたに魅了された。展覧会場でひときわ異彩を放っていた仏像だった。

2011年5月3日火曜日

手塚治虫のブッダ展

昨日、東京国立博物館に「手塚治虫のブッダ展」を見に行った。漫画の神様手塚治虫が10年以上の歳月をかけて描いた「ブッダ」の原画と仏像で釈迦の生涯をたどる展覧会だ。会場の本館特別5室は本館の中央にある部屋で会場に入ると森をイメージした照明がされており静かにブッダの生涯をたどれるようになっている。若いころ漫画「ブッダ」は夢中に読んだものだが、これを機会に改めて読み直していたので、会場の原画がどこの場面を描かれているかよくわかった。漫画と仏像でたどるブッダの生涯がコンセプトなこの展覧会では今までなにげなく見ていた仏像が釈迦の一生のどの場面を描いているのかがわかり、とても面白かった。パキスタン・ペシャワール周辺で発掘されたこの仏立像は典型的なガンダーラ仏(東京国立博物館蔵)で、漫画ブッダの姿に非常によく似ていた。頭はパーマのように髪の毛があるのも日本の仏像と違うところだ。そのほか深大寺の釈迦如来なども間近に露出展示でみれたのは収穫だった。ショップで絵葉書とクリアファイルを購入して博物館をあとにした。