2018年6月30日土曜日

特別展名作誕生④(孝恩寺の薬師如来)

名作誕生展の出品リストを見て是非とも見たいと思ったきっかけが大阪孝恩
寺の薬師如来だ。大阪孝恩寺は異形仏群の宝庫として井上先生の「古佛」でもたびたび取り上げられ行基菩薩開創の寺として知られている。「古佛」によると「本像の表現のうち、もっとも強烈な印象を受けるのは、頭髪部である」と書かれているように盛り上がっており、肉髻が大きい。会場では像高160センチあまりなので頭部の異様さが目立たないが「古佛」では顔のアップの写真があり肉髻の大きさがよくわかる。井上先生も「仏像のような高度な精神的はたらきによって作り出されるものは宗教者とそれに寄り添う仏師の存在が必要」とのこと。仮にそれを「チーム行基」と名付けると全国にあまたある行基作の仏像は「チーム行基」の製作によるものではないか。いつか大阪の孝恩寺を訪ねて行基菩薩の仏像とじっくり向き合う時間が持ちたいと思いながら次の展示品に向かった。

2018年6月23日土曜日

平成30年国宝・重文展②(雲中供養菩薩)

平成23年に宇治の平等院を修復前に訪ねたおり、隣接する「鳳翔館」という展示施設で「雲中供養菩薩」の展示に感動し写真集まで購入した。「雲中供養菩薩」平安時代大仏師定朝の晩年の作品で平等院鳳凰堂の壁に整然と配置されていた、阿弥陀如来の来迎時のおつきの観音菩薩などの菩薩を表した仏像で、像高は50~80センチのものが多くみな雲の上にのっている。この像は文化庁によって保存されていたもので写真集や雑誌でも目にしていなかった。芸術新潮で山本勉先生が指摘しているようにこの像が平等院にあったかは分からないが、文化庁解説では「平等院にあった1躯だと考えられる」とのこと。山本先生の解説によると雲中供養菩薩は背景に雲の絵が書かれていたと想像され、上半身から下半身に材が薄くなり浮彫的表現がなされており、背景の絵と合わせて2次元のアニメーションのところどころに3Dとなるイメージではないかと言っている。この以外と大きい仏像を見ながら創建当時の平等院を想像して次の作品に向かった。

2018年6月16日土曜日

特別展名作誕生③(山口・神福寺十一面観音菩薩)

山口・神福寺の十一面観音を知ったのはブックオフで購入した芸術新潮で
「仏像-一木に込めれれた祈り展」の特集記事でだった。この仏像は「真壇像」と言って本来の材であるビャクダンでつくられた壇像だ。壇像はもともときわめてインド的色彩の濃いものだが、インドにも中国にも古い仏像はなく、日本に数体伝わるのみで、法隆寺の九面観音・談山神社の十一面観音そしてこの山口・神福寺の十一面観音だ。東博東洋館で見た「三蔵法師の十一面観音」も装飾が細かく超絶技巧だったが、この海を越えた仏像も顔に痛みがあるものの、素晴らしい装飾で彫られている。唐時代の仏像で直立した姿勢でうごきはとぼしいものの、装身具や天衣のにぎやかさはそれをおきなってあまりある。この仏像に直接出会えたことの喜びをかみしめながら次の展示品に向かった。

2018年6月8日金曜日

金沢文庫運慶展⑦(瀬戸神社の舞楽面 陵王)

以前、仏像クラブで訪れたことがある金沢八景駅からほど近い瀬戸神社とい
う古い社に伝わるのがこの舞楽面だ。瀬戸神社の社伝に源頼朝または実朝の所蔵で北条政子により寄進されたという。平成23年の金沢文庫運慶展で初めて見たが、今回は運慶作と図録に「仏の瀬谷さん」が記載しておりその後の研究の成果だろうか。同じような面が鶴ヶ岡八幡宮にもあるが、頭上の龍は両手をがっしりと握って、力強い。この龍が上野東博「運慶展」に出展された四天王の装飾に似ていることが、彼を運慶作と断言させた理由らしい。ただ雑誌の対談でも舞楽面の運慶の作例がないことや、最晩年作になってしまう点、面の裏の墨書「運慶が夢想により作った」が逆に慶派一門の造像に運慶が指導して作らせたということも考えられるとあくまでも慎重だった。東国での造像の可能性を秘めた舞楽面だった。

2018年6月2日土曜日

平成30年新指定国宝・重文展

5月5日は土曜日で東博は開館時間延長日だったので、「名作誕生展」を
17時過ぎまで見てから本館で開催されている「平成30年新指定国宝・重文展」に向かった。指定された仏像は本館11室に集結しているので、そちらに向かうと入口のガラスケースには追加指定された山形・本山慈恩寺の釈迦三尊が展示されていた。私が注目したのがキシリトールガムに使われた東寺の夜叉神だ。国宝・重文展では雄夜叉のみの展示になっており像高2メートルだが大きく見えた。その隣には薬師寺東院堂安置の四天王のうち増長天が展示されていた。鎌倉時代の作で強靭な肉体と怒りの形相で表されている。奈良では東院堂を見逃してしまったので、いつか四天王すべて見てみたいと思う。反対側には快慶展で見た三尺阿弥陀や東北岩手一関の東川院の観音菩薩があり、ガラスケースのコーナーには初めて見る僧形の「雲中供養菩薩」が展示されており、奥には国宝指定の三十三間堂の千手観音1001躯のうち3躯が展示され充実した内容となっていた。心地よい疲れを覚えて東博をあとにした。