特別展「ハッケン!上田の仏像」④(前山寺大日如来)
特別展「ハッケン!上田の仏像」のパンフレットを手に取ったのが、昨年東京国立博物館のことであった。そのパンフレットで気になった仏像がこの前山寺大日如来だ。人目見て慶派の仏像ではないかと思ったが、まさか信州上田まで確かめに行くとはその当時は思わなかった。2017年に信州の仏像を見る旅をした際、別所温泉の近くの前山寺を訪れ、立派な五重塔が印象的なお寺だった。前山寺本堂に本尊として安置される金剛界の大日如来。前山寺は弘法大師空海の創建と伝わる信州の古刹。高髻を結い、腕前で智拳印を結ぶ金剛界の大日如来で条帛を懸け、折り返し付きの裙・腰布を着け、右足を上にして結跏趺坐する。高髻を結い、毛筋を細かく刻んだ頭髪、やや胸を引いて両腕前に空間をとった姿勢、両腕前に深く刻んだ円弧状の衣紋など本像の形式や表現は、鎌倉時代前期の慶派の大日如来の系譜を引くものといえる。現地でこの仏像を見て初めて運慶の大日如来を見た感動がよみがえった。両大腿部脇に腰布のたわみをつくる表現は石山寺大日如来像など快慶作品に特徴的にみられるものであり、耳の形状は快慶の弟子行快のそれに近い。表面を金泥塗り切金文様仕上げとし、像内は黒漆塗りとするなど、きわめて入念に仕上がられた本像は、上田の地に伝わる鎌倉時代の優品のひとつとして評価すべきものなのだろう。上田市仏像悉皆調査に立ち会った萩原玉川大学教育博物館准教授ならではの図録解説であった。玉川大学教育博物館でも上田の仏像を紹介する展覧会開催があったら行きたいと思った。
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