「近江路の神と仏名宝展」では以前滋賀県の「神仏います近江」で見かけずっと会いたかった永昌寺の地蔵菩薩が出展されていた。近江若狭の仏像の著者吉田さらさ氏が「形の美しさだけでなく像に込められた精神性に心打たれる」と大絶賛した仏像だ。平安時代の立像の地蔵菩薩で像高は154センチ。剃髪し、衲衣(のうえ)を着けた僧形像で左手を曲げ宝珠を捧げ、右手を下げて与願印を結んでいる。実に美しい地蔵菩薩だ。永昌寺のある甲賀は忍者の里として有名で、今年の秋訪れようと思っていた地方だ。くの一もこの地蔵様に手を合わせたのだろうか。想像するのも楽しい。お寺では光背がついた状態で拝観できたが、今回ははずしての展示だった。この秋はお寺では出会えないがまたいつかお寺で再開したい地蔵菩薩だ。
平成21年春に上野の東博で「国宝阿修羅展」が開催されたが、目的は消失した中金堂の再建事業の一貫としての特別展であった。この四天王も現在は普段拝観できない仮金堂に安置されているが今回の展覧会に出展される運びとなった。阿修羅ファンクラブのピンバッチを入り口でもらい、ファンクラブ会員だけの夜間特別拝観で会場に入った。阿修羅に圧倒された第一会場のあと第二会場の入り口に展示されたのが、この四天王だ。2m以上ある大きさに圧倒された。運慶の父康慶の作で南円堂に以前はあったのではないかとの説もうなずける。でかいばかりでなく、完成度も高く迫力があった。U案内人はその中でも、増長天がお気に入りのようだ。前年に興福寺を訪れた際拝観した、南円堂の不空羂索観音と一緒に安置されていたとの説が有力だ。来月から興福寺仮金堂で特別公開があるという。今回行く機会はないが、中金堂が再建される2018年には機会があれば是非訪れたいと思う。
近江路の神と仏名宝展で大日如来の次に注目なのが西教寺の秘仏薬師如来だ。その作風から彫刻史の研究者の間で運慶作としてよいという意見がある仏像だ。U案内人もその完成度の高さには驚いたらしくしきりに「美しい」と言っていた。西教寺の薬師如来はポーズにおいても興味深い点がある。本来薬師如来は薬壺を持った姿で造られることが多いが、通常は膝の上に手を置く。しかしこの像は腕の前に差し出されている。運慶お得意の胸の前に空間をつくる作風だ。仏の瀬谷さんも「空間の取り方を独自に消化したところに、運慶の卓抜な技量が見て取れる」と言っている願成就院の諸像に通じる作風からも運慶とみて間違いないだろう。本像は10月28日までの限定公開のためまだ見ていない方は是非足を運ぶことをお勧めする。
残暑きびしい本日、東京日本橋の三井記念美術館で開催された「近江路神と仏名宝展」に仏像クラブで出かけた。まず最初の部屋は小金銅仏と工芸品のコーナーで善水寺の誕生釈迦仏などがドラマチックな演出の照明に照らし出されていた。圧巻だったのが仏像の部屋で、快慶の大日如来を初めとする仏像がまとまって20体ほど展示されていた。写真で見るよりもどれもすばらしく仏像ファンにはたまらない展示だ。部屋の中央に長いすがあり、部屋全体を見渡せるのがうれしい。快慶の大日如来は漆が写真で見るより落ち着いた色に見え、宝髻の正面の花飾りが美しいく快慶独特の美仏となっている。宝冠や光背を取り外しての展示なので、U案内人はしきりに残念がっていた。次の部屋の神像や仏画に見るべきものがあり、小規模ながらよくまとまった展覧会であった。一階では写真パネル展「水と神と仏の近江」も開催されており、近江路への思いがつのる展覧会だった。
8月の東博訪問の際、彫刻のコーナーに仁和寺の増長天が展示されていた。昨年の「空海と密教美術」展でも展示されていたが、本尊阿弥陀如来の印象が強く、あまり覚えていなかった。今回改めて展示作品としてみると、小ぶりだが、袖の鋭い衣文(えもん)、甲冑の縁が反る表現、腹部と太もものふくらみ、腰を左に捻(ひね)って立つ姿に力がみなぎる優品である。邪鬼の踏まれっぷりもよく、宇多天皇創建当時に本尊と一緒に造られた仏像だ。創建当初は阿弥陀三尊・梵天・帝釈天・四天王の各像が安置されていたという。ありがたい仏像だが、頭部に対して体が短く、ずんぐりとした体型がどこかおかしく親しみがわく。彩色もよく残り、造像当時の鮮やかな色が、「御室御所」と言われる仁和寺の雰囲気を今に伝える優品だ。特別展とは違いゆっくり拝観できたのがよかった。