特集「密教彫刻の世界」では初期・中期・後期密教の仏像が見られる。初期密教の代表作が「三蔵法師の十一面観音」で同じみの談山神社の十一面観音で、中期密教は運慶作「大日如来」後期密教がチベットの仏像だ。1089ブログでも学芸員が「空海の伝えた中期密教がいわゆる日本の密教イメージなんだけど、本当はその前も後にも密教がある。この特集ではそれを紹介したくて、全部ひっくるめた密教を感じてほしいと思って企画した」とのこと。ここで紹介する内山永久寺の愛染明王は中期密教の仏像で、大日如来、不動明王、愛染明王が全部中期密教の経典になって新しく出てくる仏様とのこと。初期・中期・後期密教の仏像を一同に会して展示する東博の館蔵品の多さと質のよさに感動して国宝・重文展に向かった。
特別展国宝東寺の最大の見どころは仏像曼荼羅であろう。仏像曼荼羅は立体
曼荼羅とも呼ばれ平面に絵で描かれていた曼荼羅を初めて多くの仏像を規則正しく並べる曼荼羅の世界を約1200年前の京都に出現させた空海プロデュースの仏像空間だ。本展では講堂の仏像21体のうち、なんと15体が東博にお出ましになるとのこと。平成23年の「空海と密教美術展」では来なかった五仏のうち4体と国宝の菩薩4体もすべて揃いじっくりと味わうことができた。普段講堂の後ろの薄暗いところに安置されている一番保存状態がよい金剛業菩薩も360(サブロクマル)で拝観できた。金剛業菩薩をはじめとする四菩薩は平安時代の一木造りの名品でペースト状の木屎漆を塗って毛筋彫りをほどこすなど、天平時代の技法を引き継いでいる。四菩薩それぞれいいのだがやはりグッときたのが金剛業菩薩だった。最近読んでいる「ミズノ先生の仏像みかた」の著者水野先生によると「五菩薩の両ひざが台座の蓮華座からはみ出ているのは奈良時代までにはなかった新しい形で、像が身を乗り出してくるような動きと力を感じさせます」とのこと。仏像の迫力を会場で感じたのはそのことが理由だと納得した。知れば知るほど魅力的な仏像曼荼羅だった。
令和京都非公開文化財特別公開で訪問するお寺を物色していたとき、朝日新
聞デジタルの聖護院・積善院の記事が目に留まった。見出しに「法難を越えめぐり合った積善院の不動明王像公開へ」とあり積善院は聖護院八ツ橋でおなじみの聖護院の塔中だという。東福寺塔中同聚院訪問を予定していたので、京阪最寄駅から歩いて10分の聖護院を訪問先に決めた。同聚院で康尚の不動明王を拝観してから京阪で神宮丸太町駅で降り途中聖護院八ツ橋の店で道を聞きながら聖護院へ到着した。聖護院は拝観者も多くお目当ての不動明王もよく拝観できなかったので早めに積善院へ向かった。京都非公開文化財特別公開でおなじみの学生風の女性がファイルを見せながら手際よく説明してくれた。ここには明治の神仏分離令と修験道廃止令を経て四つの寺が合併され、積善院に集めまつられるようになったという。積善院の本尊は平安時代後期の秀作とされる重文の不動明王。その後ろに光格天皇勅願の高さ4メートルの準提観音が安置されており難陀竜王の兄弟が脇を固める。他には役行者と最近十二一重の衣の下から江戸時代の姿が見つかった弁財天も祀られていた。令和京都非公開文化財特別公開の最後に素晴らしい仏像に出会えて、帰りに聖護院八つ橋のお土産を買って京都駅に向かった。
令和の時代になったこの春、京都山科にある、あるお寺が仏像ファンの注目を浴びることとなった。そのお寺とは平安時代初期に藤原順子皇太后により創建された安祥寺だ。まず3月に安祥寺の五智如来が国宝に指定され、現在開催中の「特別展東寺」出展の観智院五大虚空蔵菩薩も元は安祥寺にあった仏像とのこと。4月の京都非公開文化財特別公開で安祥寺の十一面観音や四天王が公開されるとの発表があった。私はそれらの仏像を京都と上野で見ることになるが、まず向かったのが非公開文化財特別公開で沸く安祥寺だ。私が春に京都に出かけようと計画したきっかけがこの安祥寺の十一面観音だ。京都に着き山科駅におり毘沙門堂への道しるべを頼りに進み琵琶湖疎水を眺めながらまっすぐ安祥寺の参道に向かった。新緑が眩しい森の中に安祥寺本堂が立っていた。安祥寺は普段は非公開なお寺だが、この日は本堂の中に入れて秘仏の十一面観音の厨子も開いていた。入口でもらった朝日新聞の京都非公開文化財特別公開特集記事の見出しにも「凛とのびやか252センチの一木彫像」との見出しがあり充分見ごたえがある観音像だ。御厨子の左横の扉も開いており、斜め横から見る観音像の美しさに息をのんだ。一木造りの観音像だが前傾姿勢をとっている。ネットによると大きく歪曲した榧(かや)材の霊木を使用したと考えられるとのこと。また以前は乾漆との併用の仏像で奈良時代後期の製作で今は廃寺となった山科寺に国宝の五智如来とともに安置されていたという。高齢ながらかくしゃくとしたご住職からありがたく令和元年の御朱印をいただき感動冷めやらぬ中、隋心院に向かった。
今日、令和時代が始まる日に非公開文化財特別公開を見に京都に来ている。
今年の春の公開では通常非公開の安祥寺の十一面観音が公開される他、随心院の秘仏如意輪観音も公開される。安祥寺の十一面観音に感動し令和の御朱印を頂き随心院に向かった。随心院は小野小町の伝説に彩られ小町をモチーフにした屏風も飾られていたが、目的は仏像なので、本堂に向かう。秘仏如意輪観音や快慶の金剛薩埵は本日は特別に間近から拝観となった。黒い線香の色の下の金箔が確認できるほどだ。如意輪観音は空海が唐から持ってきた曼荼羅に描かれている密教的な六臂の観音で非常に官能的な表現で表されている。鎌倉で如意輪観音にひかれた私とU案内人はその後も多くの如意輪観音に出会うのだが、官能的表現とは主に二つで、中宮寺像で名高い思惟のポーズと片膝をたてている点にある。またしても心に残る如意輪観音と出会えて、やはり非公開文化財特別公開に来て良かったと思った。