第二章「山と村のカミ」では仏像から発展した神像を取り上げられている。京都では松尾大社に代表される衣冠束帯の神像が多いがここ北東北ではあくまでも個人がそれぞれ思うカミが自由に製作されたようだ。ここに取り上げる兄川山神社山神像は80センチ足らずの像高でそういったもののひとつで監修者の須藤先生によれば、「この(山神像)は奇跡的に大切にされてきたもの」だと語る。一般的にお宮にある神像・仏像は秘仏でだれも見ないうちに祠のなかで朽ち果てていくことが多い。全体を見ると、異常に体が細く、角ばった山神。だが斜めからみると意外とふくよか。顔の大きさに比べ、目鼻や口、耳などのパーツが小さく、むしろこちらが山神の悩みを聞いてあげたくなる、そんな表情だ。林業に従事する人々に今もあつく信仰されているのもうなづける。
岩手には2009年に仏像巡りで訪れ、今回出展されている、尼藍婆・毘藍婆がある花巻の成島毘沙門堂が私の仏像巡りの北限だった。あとから知ったのが二戸市の天台寺に鉈彫様式の聖観音をはじめとして素晴らしい仏像が収蔵されているとのこと。2015年に東博で開催された「みちのくの仏像展」で鉈彫聖観音を拝観したがシャープな印象がする仏像だった。今回は展覧会のコンセプトにあった仏像が集められたようで、このこけしの様な愛らしさの伝吉祥天は太づくりの体躯、野良着のような衣装に墨描きの文様。ホトケよりカミを意識した像といえる。このようなほっとさせる仏像が会場にあふれている。夢中で次の展示に向かった。
本日(2024年1月5日)東京ステーションギャラリーに「みちのくいとしい仏たち」という展覧会を見に行った。北東北の地方民間仏といわれる仏像を集めた展覧会で、初のこころみだというので期待してでかけた。初めて訪れた東京ステーションギャラリーは東京駅ドームの3階・2階の展示室と1階受付で構成された美術館で、東京駅の喧騒を抜けると静かでやさしい空間が広がっていた。全部で8つのセクションに分かれている展覧会場は「ホトケとカミ」「笑みをたたえる」「ブイブイいわせる」「やさしくしかって」「かわいくてかなしくて」などユニークなタイトルがならび展示されている仏像もほほえんでいるか、怒っていてもどこかユーモラスな仏たちでいっぱいだ。だれても癒される空間が広がっている。みちのくといわれる東北地方の仏像を見になんどもでかけたが岩手の花巻以北の仏像を見に行ってなかったので出会わなかったのであろう。私の東北仏のバイブルである別冊太陽「みちのくの仏像」(2012年発行)にも今回の目玉の展示宝積寺六観音や八幡平の兄川山神社の「山神像」が掲載されていた。今回の展覧会がきっかけで北東北のいとしい仏たちに出会う旅に出かけたいと思った。年始早々いい展覧会を見られて上機嫌で東京駅にの喧騒をあとにした。