箱根神社の素晴らしい神像群を見たあと第3章「足柄の山々に抱かれた仏たち」で足柄地方の人々により守り伝えられた仏像のコーナーに大磯六所神社の男神像が立っていた。像高は74センチと小さめで片腕がなく、腕先・足先もない姿だがなんとも雰囲気がある神像に惹きつけられた。神野ノートの神野学芸員の解説によると発見当初は両腕ともに失われていたが、右手の材と背板の下方が社殿より見つかった。右手は垂下することから、右手の持物(宝棒や戟)を執る姿であったと考えられる。眉根を寄せ瞋目(いかりめ)とする。わずかに三道相をあらわす。着甲し、背面に獣皮をあらわし、天衣・袴・短裙を着ける。前楯の帯喰は眉根を寄せ開口し帯を上下の歯で噛む。朝日観音堂の毘沙門天と製作技法が似通っており相模国で仏像・神像を造っていた仏師工房のような存在を想定してもよいかもしれない。とのこと。はかなげに見えたのは壊れていたためだと思うが、「憂愁に満ちた」青年というか眉根を寄せて苦悶する立ち姿に見えた。ネット情報によると神社ではスサノオノミコト、女神像をクシナダヒメにあてているとのこと。神奈川にも魅力的な神像が近くにあるものだと気づかせる展示だった。
今週の日曜日、埼玉県熊谷市に平戸の大仏(おおぼとけ)の御開帳に参加した。江戸時代17世紀初頭に九州平戸から移住し薬師如来・観音菩薩が元禄のころ完成した仏像で、1954年に熊谷市有形文化財に指定されたが傷みが激しくクラウドファンディングで保存修理を行った話題の仏像だ。熊谷市観光地図にも掲載されずホームページの地図で迷い迷いやっと源宗寺についた。2021年12月に落慶し真新しい新本堂の中に入って拝観した。以前より色彩が濃く復元され、台座を含めると4メートル近い仏像もいい感じに修復されていた。さすが伊豆の仏像修復に実績のある吉備文化財研究所の仕事だと感じた。木彫による造形美と重厚感が融合した迫力のある寄木造、円形の光背も壮観。表面は金箔の上に黒漆を塗る技法が用いられ光沢を帯びている。平戸の大仏には仏師による彫りの力強さと繊細さを併せ持った美しさがある。その後国宝の聖天山歓喜院晴天殿の観光となり観光ガイドの説明を受け遅いお昼となった。仏像クラブの面々からはもっと多くの人に平戸の大仏を見てほしいという意見も出て夕暮れの熊谷をあとにした。
本日、神奈川県立歴史博物館に特別展「足柄の仏像」を見に行った。この展覧会は2020年に開催された「相模川流域のみほとけ」の続編で神奈川の西湘地区の仏像を神野ノートの神野学芸員が企画した仏像展だ。神奈川歴博では悉皆調査を行ってすべて文化財の寺社調査を行った歴史があり、前回の「相模川流域のみほとけ」展でも他の地域仏像紹介の要望を多くいただいたとのこと。会場に入ると朝日観音堂の毘沙門天が地方仏ならではの味がある雰囲気で迎えてくれ、それから第二室は小田原の千代廃寺の出土品や箱根権現の万巻上人と神像群、また仏像クラブで見に行った箱根興福院普賢菩薩やネットで見て気になっていた朝日観音堂の仏像群、大磯六所神社の男神像・女神像。平安時代の仏像が多い足柄地区のユニークな仏像が続く。第4章では鎌倉・南北朝時代の仏像がとりあげられ、一番気になったのが小田原市本誓寺の阿弥陀如来だった。山本勉館長がTwitterで取り上げた南足柄市弘済寺の地蔵菩薩と二童子も雲慶(運慶)作ではないが興味ある仏像だった。仏像それぞれの表情に個性があり見飽きることがなかった。鎌倉国宝館では特別展国府津山宝金剛寺が21日より始まるようだ。しばらく神奈川仏像に目が離せない10月になることだろう。